アメリカ、シリアで大敗戦、しかし・・・・

 

 

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どうもアメリカが中東戦略を大転換するようです。

 

<米軍、シリア撤退開始…「イスラム国」掃討メド読売新聞 12/20(木) 0:41配信

【ワシントン=海谷道隆】米ホワイトハウスのサンダース報道官は19日、シリアに展開する米軍が撤退を始めていると明らかにした。

イスラム過激派組織「イスラム国」の掃討任務にメドがついたためとしている。

ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)などによると、撤退は全面的なものになるという。>

 

米軍は、シリアから「全面撤退する」そうです。

時々、「歴史的事件」は、「サクッと」起こるのですね。


「・・・・これがそんなに歴史的ですか〜〜〜〜?」


説明が必要でしょう。

 

▼シリア情勢を振り返る

 

シリア情勢を簡単に振り返ってみます。


まず、2011年に内戦がはじまった。

皆さん覚えておられるでしょうか?

当時は、「アラブの春」というのが流行っていたのです。


ところがシリアの場合、大国の「代理戦争」になってしまった。


アサド現政権を支援したのがロシアとイランです。

反アサド派を支援したのが、アメリカ、欧州、サウジアラビア、トルコなどです。


当初、アサド政権も他の中東、北アフリカ諸国の独裁政権同様、簡単に倒れると思われていた。

しかし、そうはなりませんでした。

二つの理由があります。


一つは、ロシアとイランが、真剣にアサドを支援している。


もう一つは、アメリカが最初からやる気がなかったから。

なぜ?

オバマさんは、中東を重視していなかったのです。

なぜ?

シェール革命が起こり、アメリカは、石油大国、ガス大国への道を驀進していた。


いまではアメリカ、世界一の石油ガス大国です。


自国にたっぷり石油、ガスがあるので、中東の戦略的価値が薄れたのです。

それでオバマ時代、アメリカとイスラエル、サウジの関係は非常に険悪になった。


オバマさんが、シリアを重視していなかった証拠。

2013年9月、オバマさんは、アサド軍が化学兵器を使ったことを理由に、「シリアを攻撃する!」と宣言した。

ところが、後でこれをドタキャンした。

これでオバマさんは、「史上最弱の大統領」と大いに批判されました。


で、その後何が起こったか?

アメリカが支援する「反アサド派」から、「イスラム国」いわゆる「IS」が独立。

彼らは油田を確保し、驚くべきスピードで勢力を拡大していきます。

そして、外国人を捕まえて、残虐に殺す。

外国でテロを起こす。

それで、オバマさんも座視できなくなり、2014年8月、ISへの空爆を開始します。

ところが、アメリカと有志連合のIS空爆は、「本気になれない事情」がありました。


そう、ISは残虐な集団ですが、アメリカと同じ「反アサド」なのです。

それで、アメリカは、ISを空爆するのですが、彼らの資金源である油田攻撃はしない。


状況が変わったのは、ロシアが登場してからです。

プーチンは2015年9月、「IS空爆を開始する!」と宣言しました。

プーチンの目的は、「アサド政権を守ること」。

それで、オバマのような葛藤はなく、IS空爆も容赦がありません。

ロシア軍は、油田もバンバン攻撃し、ISの資金源を断つことに成功しました。


なぜISは急速に弱体化したのか?


これは、明らかにロシアがマジでIS攻撃をしたからです。

その後どうなったのか?


アサド軍は、ISと反アサド派をほぼ掃討し終わりました。


アメリカは、この代理戦争で、ロシアに大敗北したのです。


打倒を目指したアサドは健在。

そして、アメリカ軍は、アサド打倒を諦めて完全撤退する。


これは、大声でいわないかもしれませんが、「負けた」と
いうことです。


この記事の冒頭にあげた読売新聞の記事にはつづきがあります。

 

トランプ大統領は19日のツイッターで「我々は展開する唯一の理由である、『イスラム国』を倒した」と訴えた。

ジャーナル紙などによると、米政府は早期の完全な撤退について、「イスラム国」の掃討作戦などで連携する関係国に周知し始めている。

トランプ氏はかねて「イスラム国」の掃討任務が達成され次第、米軍を撤退させたいとの意向を示していた。>

(同上)


ここには「ウソ」があります。

アメリカ軍がシリアにいたのは、「IS」ではなく「アサド政権を倒すため」です。


しかし、「アメリカは、ロシア、イラン、シリアに負けて目的を果たせなかった」

といえば、かっこわるい。

それで、「ISがいなくなったから撤退できる」といっている。

 

▼米軍撤退、真の理由は〇〇

 

それでも、米軍、撤退してもいいのです。

するとどうなるのでしょうか?

中東の覇権は、ロシアが握ることになる。

米軍が完全撤退するのは、「ロシアの中東覇権を容認する」という意味になります。


それでもいいのです。

というのは、アメリカは中国と戦争を開始した。

中国一国だけでも大変なのに、中東でシリア、イランと戦い、欧州でロシアと戦い、さらに、中国と戦うというのは、いかにも「戦略的」ではありません。


だから、シリアを捨て、中東をロシアに譲ることで、中東、欧州戦線を沈静化させる。


そして、これからは全力を挙げて、中国倒しに力を注ぐのでしょう。


トランプさんは、どう見ても「戦略的人物」ではありません。


中国と戦い、EUをいじめ、ロシアと和解できず、隙あらば日本もいじめようとしている。


結果、欧州、ロシア、中国が一体化するという、マヌケな事態になっている。


しかし、今回の決定は、珍しく「戦略的決断」でした。

 

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